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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)3号 判決 1972年11月16日

上告人

エビス食品企業組合

右代表者

大石守男

被上告人

公正取引委員会

右代表者

高橋俊英

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論は、要するに、上告人が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独占禁止法という。)違反の行為による被害者として、権利の行使として行なつた同法四五条一項に基づく申告に対し、被上告人には応答義務ないし適当な措置をとるべき義務はないとし、これを前提として本訴を不適法とした原判決には、法令の解釈を誤つた違法、判断遺脱、理由齟齬の違法があるというのである。

しかし、独占禁止法四五条一項は、「何人も……事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。」と規定しており、その文言、および、同法の目的が、一般消費者の利益を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあり(一条)、報告者が当然には審判手続に関与しうる地位を認められていないこと(五九条参照)から考えれば、同法四五条一項は、被上告人公正取引委員会の審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるにとどまり、報告者に対して、公正取引委員会に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものであるとは解されない。また、独占禁止法の定める審判制度は、もともと公益保護の立場から同法違反の状態を是正することを主眼とするものであつて、違反行為による被害者の個人的利益の救済をはかることを目的とするものではなく、同法二五条が特殊の損害賠償責任を定め、同法二六条において右損害賠償の請求権は所定の審決が確定した後でなければ裁判上これを主張することができないと規定しているのは、これによつて個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることにより、審判において命ぜられる排除措置と相俟つて同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとする目的に出た附随的制度に過ぎず、違法行為によつて自己の法的権利を害された者がその救済を求める手段としては、その行為が民法上の不法行為に該当するかぎり、審決の有無にかかわらず、別に損害賠償の請求をすることができるのであるから、独占禁止法二五条にいう被害者に該当するからといつて、審決を求める特段権利・利益を保障されたものと解することはできない。これを要するに、被上告人は、独占禁止法四五条一項に基づく報告、措置要求に対して応答義務を負うものではなく、また、これを不問に付したからといつて、被害者の具体的権利・利益を侵害するものとはいえないのである。したがつて、上告人がした報告、措置要求についての不問に付する決定は取消訴訟の対象となる行政処分に該当せず、その不存在確認を求める訴えを不適法とした原審の判断は、正当である。また、独占禁止法四五条一項に基づく報告、措置要求は法令に基づく申請権の行使であるとはいいえないのであるから、本件異議申立てに対する不作為の違法確認の訴えを不適法とした原審の判断も、結局正当である。

なお、所論は、告訴権の行使を妨げられたというけれども、告訴権の有無は、本訴の適否とは関係がない。さらに、所論は違憲をいうけれども、その実質は単なる法令違反の主張にすぎず、原判決にその違法のないことは、既に述べたところから明らかである。

以上、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(下田武三 岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一)

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